秋桜のエッセイ

診断について

2005-05-31

発達障害の診断は非常に難しい。同じ人についても医者によっては異なる診断を下すことは日常茶飯事であり、また、成長につれて障害像が変化したために、診断名が変化することもある。

私の場合を例に挙げると4歳近くまで発話がなかったため、最初は自閉症という診断になっただろうが、就学前には言語を獲得して正常知能になっていたので高機能自閉症もしくはアスペルガーという診断に変化していったであろうと考えられる。

勤務していた病院(発達障害児専門の訓練施設)でも、ドクターはまず初診時の印象で診断名を出し、訓練士にオーダーを出すが、必ずしも正確に障害像を把握しているわけではなく、場合によっては訓練者が出した報告書によって診断名を変えることもある。

訓練士も1,2回の評価面接では本人の状況を把握できないことも多く、1回目で大まかな知的評価と認知能力の偏りを把握し、2回目でさらに細かく評価していくことになる。だから1回目で「この子はLDとADHDの合併かしら?」と思っても2回目で「自閉もある?」となる場合も多くみられる。特に初回は患者さんも緊張しているので普段の状態が出せないため、親御さんからも日常について聞き取りを行いながら観察していくことになる。

子どもの場合は5,6歳になるとサリー・アン課題といった相手の状況を考えるといった練習も取り入れていくが、どれだけ相手の立場になって考えられるかも指標にして分析する。高機能自閉やアスペルガータイプのお子さんの場合、年齢に比べて自己中心的な回答が出てきたりするので、それも診断の参考にしていく。

小学校中学年になってくるとそれなりに正解が分かってくるが、正解にするのを嫌がって変な言い訳をするので、その辺りが診断の鍵になってくる。言い訳等の行動がトラブルの元になりやすいので、訓練ではソーシャル・スキル・トレーニングの割合を増やしていくよう心がける。それと同時に自己管理の練習なども始めます。この辺から親にも自立について考えさせ、自分たちでできるように指導しながら次第に訓練間隔をあけて長期フォロー→終了(一応何かあったらドクターに連絡するよう伝えています)という形にしています。

この時期は自分の障害についても疑問を感じることが多いので、診断名をはっきり告げないまでも(日本の法律では一応診断を下すのは医師ということになっているので)、何のために訓練をしているか、どうやったら人とコミュニケーションを取れるようになるか、そのためにはどういうことを気を付けなくてはいけないかということを話し合い、自己評価と他人の評価のずれを確認・修正していく練習を行っていく。

ただし自閉症とはっきり分からない場合は最近は広汎性発達障害(=自閉症スペクトラム障害)で曖昧にしているケースも多いのが現状である。実際「発達障害の分類について」という記事にも書いたが、特定不能の広汎性発達障害(非定型型自閉を含む)というケースは意外と多い印象を受けている。

大人の場合は環境因子も加わるので、さらに診断が難しくなる。また精神疾患との区別もつきづらいし、二次障害を抱えている場合はよけい慎重に診断をしていく必要がある。最近精神科のドクターでも「向精神薬が効きづらい場合は発達障害の可能性が高い」と主張する人が増えてきたが、まだまだ少数派だと思う。

診断と訓練を一緒に書いたが、医療の場合訓練というのは薬と同じく処方という考え方なので、セットとして考えた方がいいし、診断だけでは片手落ちだと私は考えている。やはり診断をしたからにはどの様な工夫をして社会と折り合いを付けていくのか一緒に考えて行くというのが本来発達障害支援のあるべき姿だと折に触れて感じている。

発達障害の専門医が少ない今は誰もが気軽に診断を受けるというのは難しいかもしれない。しかしある程度の年数を生きていれば自分の認知の特徴というのは多かれ少なかれ自覚しているのではないだろうか。その自覚していることをさらに意識化し、自分が持っている能力のどの部分を使っていけばいいのかを考え、実践していくことが社会へ適応していく方法だと私は思っているし、実際そうやって自分の方略を身に付けてきた。

結局診断はあくまでも医療や福祉のサービスを受けるために必要な物であって、成人の場合はむしろ自分の中の発達や認知の偏りを自覚して社会の中で自分らしく生活できる手段を獲得するのが近道だと思う。

※文章の一部に「私が幼い頃に診断を受けた」と誤解を招く表現があり、訂正しました(2009年4月4日)。私の例は成長につれて障害像が変化したために、診断名が変化する可能性として書いています。

当時は自閉症と診断できる医師はほとんどおらず、専門家(心理士)の指摘だけでした。

成人後私の話を聞いた複数の専門医がこのような解釈でいいだろう、と意見が一致しています。

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