診断後、初めてのお正月 / マルハナバチ (98/11/20)

大人になってから自分がなんらかの先天性の障害(ふつうは子どもの問題と思われて いる障害、あるいは子どものときに気づくことの多い障害)を持っていると気づいた 場合、親に明かしていいものか、ナイショにしなければいけないものか、迷いません か?

私はことしの5月にアスペルガー症候群(完全なアスペとはいえず、少し普通の高機 能自閉に近いとも言えるそうです。これは重複障害という意味ではなくて、連続線上 のものだから、その線の上でどの辺に位置するか、という意味でしょう)と診断され ました。診断されたとき、33歳でした。

さて、診断されて名前がついたといっても、それがいったい具体的にどういうことな のか、もう一つわからなかったので、あれこれ資料をさがして読みました。それでも まだもう一つピンとこなかったので(実は、ただの重症のADDに非言語LDとOC Dが重なっているだけなんじゃないかとも思ったし)、じゃあ本物のアスペや高機能 自閉の人たちをいっぱい見て、見くらべればわかるよね、と思って、アメリカの某所 で開かれた自閉者の大会に参加しに行ったんです。

そして、みんなに会って、いっぱい話もして、メーリングリストに入っていっぱい相 談に乗ってもらって、ほかにも何人もの高機能自閉やアスペの人たちと個人的に文通 して、あああ、こんなに似てるんだ、やっぱり私は自閉民族だったんだ、少数民族だ ったんだ、暮らしにくかったのも、当たり前だったんだ、と、だんだん、納得が行っ たんですよ。

ところが。

納得したのと引き換えに、今まで当たり前だと思ってがまんできていたことが、実は いかにしんどかったかということに気がついてしまって、なんていうんでしょう、が まんの能力がガタ落ちになってしまったんです。

ずっとこんなもんだと思ってハイヒールはいてて、あるときネンザかなにかをきっか けに、しばらく上等のスニーカーかウォーキングシューズなんかに切り替えたら、も う一度ハイヒールはくの、大変そう、って思ったりしませんか? そんな感じなんで す。

診断を受ける前、私は、お出かけはなんとかちゃんとこなしていたけど、帰ってから がひどかったんですね。ぐったり、起き上がれない。あるいは、ことばがしゃべれな い。夫に暴力をふるう。物をこわす。

診断受けてから、というよりも、診断を受け入れて納得して、同じ自閉民族だと思え る仲間たちに受け入れられたと実感してしまってから、お出かけしてるとき、人に会 ってるときの機能レベルは、下がっちゃいました。言い方を変えれば、自閉の症状は 一見悪化してるわけです。物音に驚いたら、堂々と飛び上がるとか、耳をふさぐとか。 ところが、家に帰ってからが逆。何とか帽子を片づけて、夫にあいさつをする。次の 日も、朝になったら起きる。夫に暴力をふるわなくなったし。

だから、プラスマイナスしたら、おんなじかなあ。でも、個人的、内面的には、プラ スが勝ってると思うんです。

ところが。

もうじきお正月でしょ。私と夫と双方の実家に帰らなきゃいけない。今までは、わけ がわからないから、ただやみくもにがまんしていたものが、今は、「これが苦痛の原 因だ」ってわかってしまっている。テレビの音、ドアの音、予定変更、ホットカーペ ットのしびれ感、神社の人ごみ、ミカンの汁、・・・・ これまでと同じようにがまんで きるだろうか。これまで通り、「正常のふり」ができるだろうか? 

私、絶対に、以前より芝居がヘタになってると思うんですよ。前よりも自分を知って しまったから。そして、楽にするという、自分の自閉の要求と折り合って、暮らしや すいように暮らすという、「禁断の木の実」をちょっと味見してしまったから。自閉 民族と自覚してから初めてのお正月。一時帰国を経験してから、初めての帰省。緊張 してしまうなあ。だからといって、診断を明かす気にはなれないし。33にもなった 娘から、「私は実は発達障害でした」なんて言われたら親だって困るでしょうしね。 でも、黙っていたらいたで、無理難題を言われ続けるわけでしょう、「努力しだいだ から」とか「ちょっとやってみたらいいのに」とか「食べず嫌いだから」とか、「そ のうち慣れるわよ」とか、的外れなことを。しかも、向こうには悪気はなくて、単に 知らないというだけで。

何だかねえ・・・ お正月、恐怖です。


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